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2021.10.01

農作物の生産者の思いを届け、一次産業の理解と振興を図る

農業などの一次産業の振興と発展に取り組む一般社団法人食農健。食糧自給率が低調に推移する中、一次産業の魅力をどう訴求し、盛り上げようとしているのか。食農健を設立した経緯と主な活動内容、農業に対する思いを、代表理事の大島佳季雄氏に聞きました。

食糧自給率改善に向けた活動に注力

 「食が元気になると、人の暮らしも、地球も元気になる。」。こんなコンセプトを前面に打ち出す一般社団法人食農健。農業を始めとする一次産業の振興を目的に、国内の食糧自給率向上に向けた活動に従事しています。2009年に設立してから12年。加盟企業は150社を超え、加盟企業によるネットワークを駆使した施策を次々に展開しています。

 食農健を設立した経緯について代表理事の大島佳季雄氏は、「命の根幹である『食』への関心の薄さに危機感を覚え、状況を変えたいと思った。日本の食糧自給率(カロリーベース)は38%にとどまる。これは先進国の中で最下位の値だ。こうした日本の現状を理解してもらうとともに、健康な日常を維持するための知識や情報を積極的に発信することを目指した。農業や漁業などを普及・啓発し、健康管理に対する意識の高揚を社会全体に広めたいと願った。」と言います。事業分野を異にする加盟企業などと連携し、新たな事業領域を築いて共益性を追求することをビジョンに掲げます。

 そんな食農健が注力して取り組むのが「かかしプロジェクト」です。農業や食糧の課題解決を目的に、国や地方自治体、企業、団体、生産地などと連携した啓発活動です。2021年1月には「かかし市場」という販売イベントを開催。これは、新型コロナウイルス感染症によりインバウンドや外食需要減少の影響を受けた国産農林水産物などを食べて応援しようという、農林水産省の補助事業である「#元気いただきますプロジェクト」の一環で実施したイベントです。ショッピングセンターのイオンレイクタウンやスーパーマーケットチェーンのサボイ9店舗で2週間にわたって農作物などを販売しました。「農家が育てた生産物、漁師が獲った水産物を多くの人に届けたい。そんな思いでイベントを実施した。これらを直接目にする機会を増やすことで、農業や漁業に関心を持ってもらいたかった」(大島氏)と言います。食農健では今後も「かかし市場」の名称を使ったイベントを展開していく考えです。農作物などを販売するための場としてではなく、企業や一次産業従事者などが集まるコミュニティとして利用することも視野に入れます。
かかし宣言

六次産業を創出する体制構築を支援

 かかしプロジェクトでは、農業などの啓発活動に加え、「六次産業」の支援も活動方針の1つに掲げています。六次産業とは、「一次産業+二次産業+三次産業」という考え方に基づくもの。一次産業(農林漁業)の従事者による二次産業(製造、加工)や三次産業(卸、小売、観光など)への取り組みが、新たな付加価値につながるという考え方です。ただし現在はこの考え方が発展し、「一次産業×二次産業×三次産業」という掛け算が六次産業であるとされています。足し算のときのように一次産業従事者が二次産業や三次産業に取り組むのではなく、二次産業や三次産業の従事者との連携による取り組みが六次産業をつくるという考え方にシフトしています。

 大島氏は、食農健がこうした考え方を支援する役割を果たすべきと考えます。「一次産業従事者が加工工場を自前で構えるのは難しい。二次産業や三次産業従事者との有機的な連携が六次産業の創出には欠かせない。ではどう連携させるのか。そのときの橋渡し役となるのが食農健だ。当団体は150社超の加盟企業によるネットワークを持っているのが最大の強みだ。加盟企業の中にはITに精通する企業、流通向けプラットフォームを提供する企業もある。こうした企業と一次産業従事者のマッチングを支援すれば、農作物などに付加価値を付与できるはずだ」と、食農健の強みを強調します。生産する従事者、加工する従事者、流通する従事者などが、それぞれの強みを武器にしつつ、それらをワンパッケージで提供する体制づくりを支援します。「各産業の従事者が自分たちの専門分野の強みを生かすことが大切だ。“餅は餅屋”という考え方こそが六次産業創出の鍵になる」(大島氏)と言います。食農健では、二次産業や三次産業従事者との連携強化による農林水産業の振興も図っていく考えです。

 なお、食農健では生産物をどう消費者に届けるべきかも視野に入れます。「消費者が必要なときに必要な分だけ届ける仕組みづくりを模索している。『ミールキット』のように必要な分だけ届けて消費してもらう提供形態を準備したい。さらに、YouTubeやテレビドラマの食事シーンなどで映っている食材をその場で買える仕組みづくりも興味深い。若い世代に対して生産物をどう訴求すべきか。新たな消費者をターゲットにした斬新な施策も検討したい」(大島氏)と意気込みます。
大島理事長

食材の価値を付与した情報発信を目指す

 もっとも、農業や漁業を周知・啓発するイベントを実施するだけでは一次産業の振興は必ずしも果たせません。農林水産物の価値や魅力をどう見出すべきか。食農健はこうした課題にも向き合います。「野菜や果物、魚などの食材の美味しさや鮮度を訴求するだけでは必ずしも魅力は伝わらない。食材を取り巻く地域の人の思い、文化、風土といった背景も含めて伝えることで初めて食材に価値が生まれる。こうした価値を消費者にきちんと届けることが食農健が果たすべき重要な取り組みである」(大島氏)と言います。食材という「モノ」だけに価値を見い出すのはなく、地元ではその食材をどんな思いで育てているのか、獲っているのか、どんな料理に使っているのか、どんな時に食するのかなどを含めた価値こそ伝えるべき情報であると考えます。

 「自給率低下」という危機感をあおるだけの情報発信も好ましくないと大島氏は続けます。「食農健を設立した当初、食糧自給率が低いから現状を変えるべきという情報を発信していた。しかし今では、適切な取り組みではなかったと反省している。危機感をあおるだけでは情報の受け手は楽しくない。ネガティブな情報ではなくポジティブな情報こそ魅力が伝わるのではないか。最近はこうした情報を積極的に発信している。これがSDGsの取り組みと合致し、消費者も有意義な取り組みであると気付いてくれるに違いない」と言います。
漁業

支援の手を広げて農業振興を図る

 食農健は今後、農業に関心のある人を支援する取り組みも進める考えです。「畑を借りて野菜を栽培する『週末農業』を始める人が増えている。新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に地方移住への関心も高まった。こうした人を農業に結び付ける支援策を検討したい。特に、農業を始めたいが誰に頼めばいいのか分からないといった人に手を差し伸べたい。次代の担い手がいない農家と農業を始めたいと考える若い世代をマッチングし、農家、農業に関心を持つ人の双方をバックアップしたい」(大島氏)と言います。

 さらに、一次産業に関わる事例を多く発信したいと大島氏は続けます。「農業や漁業などの最新情報をできるだけ提供するのが食農健の努めだ。そのためには加盟企業はもとより、多くの一次産業従事者とのネットワークを構築し、さまざまな情報を発信できる体制も強化したい。一次産業従事者の新たな取り組み、連携の動きなどの事例を世に届けたい」と言います。

 誇張のない現状をありのまま伝える…。これは、大島氏が食農健を設立してからこれまで貫き通してきた姿勢です。こうした大島氏の真摯な姿勢こそ、多くの消費者に農業を知ってもらうためには大切な考え方なのかもしれません。
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